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銅版絵付けのカップ ユカワアツコさん×丸直製陶所さん

明治時代の窯業生産に多大な変革をもたらしたのは、印刷による絵付けによって手工業的な大量生産を可能にしたことだと思います。
その中でも代表的な技法が「銅版絵付け(銅版転写)」で、和紙に刷られた銅版画を素焼きした器面に写し取る技法です。
写しムラや色ムラが生じやすいこの技法は、現在では限られた工場でしか行われていませんが、現在継続されている銅版絵付けの場合でも、実際には銅版を使用しないことが大半となっています。シルクスクリーン印刷と呼ばれますが、絹などの織り目の細かい布地を版として、布目を通してインクを刷り込む手法を使うのが普通です。鉄筆を使い、手で文様を描く銅版に対して、シルクスクリーン印刷の製版は、原画を写真撮りしたフィルムを使い、布地の版に直接焼き付ける方法で行われるため、手描き職人を必要とせず、忠実に原画の再現が出来るのです。
銅版絵付けの製版をより簡便に行う方法としてはとても有効なシルクスクリーン印刷ですが、ただひとつ欠点があります。布目を通してインクを刷り込む印刷ですから、布目の一マスの寸法より細い線は製版できないということです。
さて、ここで登場するのがユカワアツコさんの細密画です。
イラストレーターであるユカワさんが描く細密画の題材となる動物たち、ことに鳥たちに対する、涙ぐましいほどの執着については、倉敷意匠分室カタログ「生きものをめぐる二十二人の作り手たちの物語」、倉敷意匠計画室の紙モノカタログ5「本が好き特集」にも詳しく書きましたので、ぜひ参照いただけましたらと思います。
このたび作ろうとしたのは、丸直製陶所さんのエッグシェルと呼ばれる極薄のうつわに、ユカワアツコさんの細密画を銅版絵付けするというもの。優しくも緻密な線描ですから、当然、銅版絵付け本来の銅版が必要となってきます。
ロウで被膜した銅板に、銅版画職人さんがユカワさんの原画を鉄筆で模写し、そのあと酸に浸けるとロウが剥がれた絵柄部分のみ腐食します。鉄筆で描かれる銅版画は、濃淡がすべて斜線で表されることに特色があります。これを凹版として印刷したものが転写紙となります。
次は、この和紙の転写紙を水で濡らし、曲面のうつわに刷毛で貼りつけ、絵柄を転写させるわけですが、丸直製陶所さんは、写しムラを最小限に抑えるその技術においても国内屈指の繊細さを持っています。
それともうひとつ、エッグシェルのうつわの極め付け、カップの底部に透かしを入れました。光にかざすと猫の顔が浮き出てくるのです。
明治の初め頃、ヨーロッパの商人が持ち込んだ珈琲碗が発端となり、長い歳月をかけて生み出された美濃の職人技が、これでもかと積み重なった、とっておきのうつわが出来上がりました。
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