「風景をなぞるように、ただ、素を描写していたい。」と言うしゅんしゅんさんは、自分の職業を素描家と名乗ります。 素描を辞書で引くと、「物体の形体、明暗などを平面に描画する美術の制作技法、あるいは作品。フランス語でデッサン、英語でドローイング」とあります。 対象を忠実に描画するのがデッサンやドローイングであるなら、ボールペンの単一な線で場の空気感を描き出すしゅんしゅんさんの絵は、イラストレーションと言った方が近いのではないかという気もしました。 専門外のことで、美術用語としてそれぞれの言葉が持つ本来的な意味を理解しているわけではないのですが、イラストレーションの役割は、題材の含み持つ情報を図解し、わかりやすく伝達する媒体となることではないかと思います。 しかし、しゅんしゅんさんの絵を見る人が思わず感じてしまう共感は、図解された情報によるものではなくて、そのとき作家自身の目に見えたであろう主観的な空間が、今の自分の眼前に現れてくることではないでしょうか? つまり、その絵は媒体として存在するのではなくて、作者の感動の投影として成り立っているのです。 自身の仕事を、「素直に、素朴に、素早く、描くこと」と語る通り、紙とペンを持ち「その場で描く」という、どんなに時代が進化しても変わらないプリミティブな行為、その臨場感を絵にすることは、やはり「素描」と言うにふさわしいことのように思います。 しゅんしゅんさんのかつての旅の時々を切り取った風景が、三つのマスキングテープになりました。そっとテープを引き出すたび、静かな素描に心安まることでしょう。
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